家族中心の経済設計
経済v2の設計原理は、家族を経済の基本単位として再設計することである。現在の個人単位の経済制度を、家族単位に転換する。
本章では、その設計原理と、制度実装への方向性を示す。ただし冒頭で述べた通り、具体的な制度設計の詳細は、民主主義v2ほど詰められていない。本章は設計原理の提示に留まり、詳細な実装は今後の課題として残る。
個人単位から家族単位へ
現在の経済制度は、個人を基本単位として設計されている。
- 所得税は個人の所得に対して課される
- 社会保険は個人単位で加入する
- 年金は個人単位で受給する
- 雇用契約は個人単位で結ばれる
- 消費は個人単位で計測される
この設計は、個人の自立と選択の自由を最大化する思想に基づいている。個人が経済活動の主体であり、家族は個人の集まりとして副次的に扱われる。
経済v2では、基本単位を家族に移す。
- 所得税は家族の総所得に対して課される
- 社会保険は家族単位で加入する
- 年金は家族単位で設計される
- 労働制度は家族内の分業を前提とする
- 消費は家族単位で支援される
これは戦前への復古ではない。個人の選択は尊重される。しかし経済制度の基本単位は、個人ではなく家族に置く。個人は家族という共同体の中で生きる存在であるという認識に、制度を合わせる。
制度設計の方向性
以下、各制度における設計方向性を示す。詳細な実装は今後の課題である。
税制
家族単位の所得合算と累進課税を基本にする。現在のフランスのN分N乗方式のように、家族の所得を家族人数で割って税率を決める方式が参考になる。
家族内の資産移転(親から子への援助、相続)への優遇を強める。家族は世代を超えた継承単位であり、その機能を税制で支える。
家族の規模(子供の数、扶養する高齢者の数)に応じた控除を手厚くする。家族が担う共同体機能の大きさに比例した支援。
社会保障
家族内扶助を前提とし、それで足りない部分を社会保障が補う設計にする。現在の個人単位の社会保障は、家族内扶助を減らす方向に作用する場合がある。介護保険があるから家族が介護しなくてよい、という構造は、家族機能を弱める。
家族が内側で機能するほど、社会保障コストが下がる。この関係を制度に反映させる。家族機能を保っている世帯には、直接的な金銭支援よりも、家族機能を強化する支援(住宅、教育、時間的余裕)を提供する。
労働制度
家族内の分業(外側と内側)を前提とした労働制度に転換する。現在の長時間労働前提の雇用慣行は、家族の一方が家の中の仕事を全て引き受けることを暗黙に要求する。この要求は、現代の共働き家族では成立しない。
家族のどちらか、あるいは両方が、時間的な柔軟性を持って働ける制度が必要である。時短勤務、在宅勤務、育児休業、介護休業、これらが標準的な選択肢として設計される。
また、家の中の労働も労働として認める。家事、育児、介護の時間は、何らかの形で年金受給権や社会保障受給権に反映される。これは家の中の労働を「賃金化する」のではない(それは市場化であり、家族機能を壊す)。労働としての価値を認める仕組みである。
住宅制度
家族の継承を前提とした長期的な住宅保有を支援する。現在の住宅制度は、個人が短いサイクルで住宅を買い替えることを前提としており、世代を超えた継承を想定していない。
二世帯住宅、三世代同居、近居、これらを促進する制度設計。税制、ローン、補助金で、世代間の近接居住を支援する。
教育制度
家族内教育の価値を認める。家庭学習、家族での読書、家族での会話、これらは教育の重要な一部である。現在の教育制度は、学校教育だけを教育と見做し、家族内教育を不可視化する傾向がある。
家族が教育機能を発揮できる時間的余裕を制度で保障する。親が子供と過ごす時間を確保できる労働制度、経済制度。
内と外の対称性の回復
これらの制度設計に共通する原理は、内と外の対称性の回復である。
市場経済原理主義は、外側(市場労働、貨幣所得)だけを価値として認め、内側(家族内労働、共同体活動)を価値から外した。結果として、全員が外側に出ることが「正しい」とされ、内側は空洞化した。
経済v2は、内と外の両方を価値として認める。外で働くことも価値、内で家族機能を担うことも価値。どちらを誰が担うかは、家族内で自律的に決定する。両方が社会的に認められる構造を作る。
市場経済との関係
経済v2は、市場経済を否定しない。市場経済は、匿名の多数の主体間での財とサービスの交換に、優れた仕組みを提供している。この機能は維持されるべきである。
問題は、市場経済が経済の唯一の形態と見做され、共同体経済を消去してきたことである。経済v2は、市場経済と共同体経済の並立を目指す。
- 市場経済: 匿名の多数の主体間の交換、効率、競争、普遍性
- 共同体経済: 長期的信頼関係の中での価値創発、継承、相互扶助、境界の内側
両者は異なる論理で動き、異なる機能を果たす。どちらか一方だけでは、社会は成立しない。市場経済が肥大化して共同体経済を消去すれば、社会は持続しなくなる。共同体経済だけでは、現代の大規模な財・サービス交換は成立しない。
両者の並立を制度的に支えるのが、経済v2の役割である。
民主主義v2との接続
経済v2は、民主主義v2と構造的に並行し、相互に補強する。
民主主義v2は、参議院に「各専門分野の代表団体」を配置する。主婦は家事と育児のプロ、会社員は社内経済のプロ、町内会長は町内経済のプロとして、それぞれの領域で代表される。これは共同体経済を政治的に可視化する動きである。
経済v2は、家族を経済の基本単位に据える。家族は共同体経済の最も基礎的な単位である。これを経済的に可視化する動きである。
両者を組み合わせると、以下の三層構造が回復する。
- 国家(衆議院・参議院): 民主主義v2で設計
- 社(職業共同体): 参議院の代表団体として組み込まれる
- 家族: 経済v2で設計
近代日本は、戦後の近代化でこの三層構造を「個人・国家」という二層に圧縮した。間の層(社と家族)が空洞化した結果、個人の孤立と国家の肥大化が同時に進行した。民主主義v2と経済v2は、三層構造を現代的に再構築するプロジェクトとして統合される。
今後の課題
本稿で示したのは、設計原理と方向性である。具体的な制度実装の詳細は、今後の課題として残る。以下は、特に詰める必要のある論点である。
家族の法的定義。機能定義を採用した場合、現行の戸籍制度との関係をどうするか。法的家族と機能的家族が一致しない場合、どちらを税制や社会保障の単位として扱うか。
家族の解消と再編成。離婚、再婚、独身、単身世帯、これらを経済v2の枠組みでどう扱うか。家族を基本単位としながら、家族を持たない個人も排除しない制度設計。
共同体経済の計測。共同体経済は貨幣で測れないが、政策立案のためには何らかの可視化が必要である。GDPに代わる、あるいは補完する指標の設計。
国際貿易との整合性。経済v2は国内経済の再設計だが、国際貿易の枠組み(WTO、自由貿易協定)との整合性をどう取るか。
移行プロセス。現在のv1経済から経済v2への移行を、どのような時間軸と手順で行うか。
これらは本稿の射程外として切り離すが、経済v2の実装には不可欠な論点である。今後、別稿で扱う可能性がある。
結語
経済v2の中心思想は、共同体経済の回復である。家族を基本単位として再定義し、家族を中心に経済制度を再設計する。市場経済を否定するのではなく、市場経済と共同体経済の並立を目指す。
この設計は、冒頭で示した診断への処方箋である。「自分たちは将来世代のための投資はやらない。将来世代は外部から調達する」という現代社会の構造を、内部での再生産能力の回復に転換する。
具体的な制度実装には、さらなる詰めが必要である。しかし原理は明確である。内側の価値を認めること。家族を経済の基本単位に据えること。外と内の対称性を回復させること。これらが経済v2の設計原理である。